Mostly, this is diary.
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スカジャンの男。
男の後をベージュのスーツの母が追うようについて行く。
ふと母が思い出したように振り返って私に問う。

「あなた、まさか自殺なんかしたりしないわよね?」

「え?...どうしてそう思うんですか? 確かに今日のことはとてもショックではあったけど...?」

私は腰掛けていた居間の窓辺から立ち上がって、アプローチを進む親子に近づく。
せめてこの人達を門までちゃんと送ろう。

「だって、何か...悪い予感みたいな物が...」

彼女は片手をあごの辺りに当て、少し俯きぎみになって考える。
その声に彼も歩みを止める。

「それは予感であって、未来に起こることではないでしょう? それとも予感って結構当たるほうなんですか?」

「いえ、あなたほどではないけど...。当たることもあるわ。」

顔を起こして彼女は私を見る。
意外に彼女は強い人だ。
ああ、そうだ母だからきっと強いんだ。

「...じゃあ、失礼かもしれませんが外れることもあるんですね。」

相手が『母』でもここは譲れない。
絶対。

「そうね。あなたってなんだか時々憎らしくなるわ。」

「それは、よかったですね。私はお嫁さんになれないから、憎らしく思うこともきっと少ないと思いますよ。」

「なれないんじゃなくて、ならないの間違いじゃない?」

「さあ、さっき実際にうちの母と話してどう思われましたか?」

「本当に私たちを困らせたりしないわね? 約束して。」

彼女の言葉は勝手だ...と思った。
残酷じゃないの?
驚きは隠せなかった。
よくも、そんなこと言えるわねっ! 私がお宅様のおかげで困らないと思ってるの?
今までとは訳が違うのよ!
という言葉が出かかって慌てて飲み込む。
急に彼女が憎くなったけど、所詮私は彼女の娘ではない。

「何だか勝手ですよね? 別にいいですよ。もう会わなくても。お互いその方がいいじゃないですか?」

「...そうね。あなたがそういうのならそうしましょう。私ももうこんな事があった後では嫌だわ。」

彼女には大切にして余りある息子がいる。
きっと嫁が嫁ぎ先に感じる違和感てこういうものなんだろうな。
まあ、いいや私が嫁に行く場所じゃないし、ちゃんと他に嫁が行くこと私は知ってるし。
どんな嫁が行っても、私には関係ない。
そう、関係ない。

「いや、じゃ俺が会いに行く。」

え?
来るんだ...

「嬉しくなさそうだな?」

「そんなことはないよ。ただ、お母さんがこういうのによく会いにくるって言ったなって思ってさ。」

「そうか。俺はお前を信じるよ。だからお前が俺に何をしようとしてるか確かめるんだ。」

「私は約束を守ろうとしているの。あるいは言ったことそのもののこと。」

「じゃあ、俺もおまえとの約束を守るよ。」

「そう、じゃそうして。」

守れるものならね...
本当ならそう付け加えたかった。

「あ、でも。本来の目的を達成するための嘘だったら許されるかもしれないけど、可能な限り私は嘘つかないようにするよ。」

「じゃ、俺もそうする。で、俺は誰と結婚するんだ?」

「女優でしょ。ありがちだし、それには結構自信があるんだよね、前から。」

アプローチにはツツジの植え込みがある。
歩く意志がまるでないかのようにゆっくりと私たちは進んでは立ち止まった。

「おまえは?」

「さあ? わかんない。誰って言われても、何も思い浮かばないから結婚しないのかもね。」

「俺に内緒なんじゃないのか? お前はもう俺に嘘をつくのか?」

「違う。嘘なんか何もついてない。あ...?」

脳裏に、いや視界に男の人の姿が浮かんだ。
背景が暗い、夜。
男の人は黒い帽子を深めにかぶっている。
着ているものはよくわからないけど、シャツと黒いニットのような物が左肩から覗いてる。

「どうした?」

「何か今ね、結婚するかどうかわからないけど男の人が見えた。背が高い、私よりずっと。」

「俺より高い?」

「うん。...でも、君はまだ伸びるでしょ。17だっけ?」

「それで?」

「場所はどこなんだろう。外国かも? 遠くに煉瓦の建物があるみたいだけど、夜で暗くてよくわからない、。でもその人は黒い帽子をかぶってる。」

「顔は?」

「...なんだか...(君に)似てる。輪郭も目も。でも、かなり今とは違って見えるから同じかどうかはわからない。」

「どういう意味だ?」

「もしかしたら年を取ってるんじゃない? でもその人とてもカッコイイ。私はその人が好きみたい。今も見えてる。その人私の正面に立ってる。」

「その時まで好きかどうかわからないのか?」

「ううん。わかってるみたい。なんか再認識したって言うか...思い出せないみたい、いろいろあって過去のことが...そんな感じ。」

「で、誰なんだ?」

「わかんないよ。名前書いてないもん。...案外、自分なんじゃない?」

アプローチの終わりには私の希望で夏椿が植えてある。
花のつく時期が短いと母は不興だったが、花の意味もその風情も説明して薦めた樹木だった。
まだ花のない夏椿の前に彼は立っていた。
彼は立ち止まって私の顔を見た。

「俺は俺であることを祈ってるよ。」

こんなこというのに、きっとこの人は別の人と結婚する。
嘘つきなんだ。
そういうつもりがなくても、嘘になるから嘘つきなんだ。

「今は『嘘つき』って呼んでおくよ。証明する方法がないから、あらかじめ言っておく。」
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