Mostly, this is diary.
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2007年6月8日。

2007年6月8日。
LAXから成田に下り立った。
久しぶりの飛行機酔いで、着陸と同時に吐いた。
吐けば気分は良くなるのだが、体がだるかった。
東京の空気は寒い3月から明らかに6月のそれへと変わっていた。

税関を過ぎて外に出ると、見覚えのある顔があった。

「...迎えに来たんだ?」

「来た。」

「...そんなとこで会社休むなって言ったのに。しょうがねえな。行くか?」

荷物は小さいスーツケースが1つ。
仕事らしい仕事で渡米したわけでもなかったのに。
いわばリハブで終わってしまった旅だった。

「(USA)どうだった?」

「うん。お陰さまで具合はすごく良くなったよ。ありがとうな。どうせ都心までスカイライナーだろ? チケットどこだ?」

「何度利用してるんだよ?! あっちだ。いい加減覚えろよ。」

「おお? おお...。」

屋内で私はたいてい方向に戸惑う。
なにしろ正月の新宿のルミネで2時間方向を失って迷っていた記録があるし。
自分が歩み始めた方向と逆にチケットカウンターがあった。
窓口に近付くと、右側に女性2人すれ違って行った。

「スカイライナー、何で今乗れないの~。」

「それより『いきなり、僕俳優に似ていますか?。』とか言われてもねぇ。」

「『さあ、似てるんじゃないですか?』としか答えようがないと思わない?」

なんだって?
乗れないってどういう事だ?

「...おい。何かスカイライナー乗れないらしいぞ? 今すれ違った女の子達が乗れないっていってた。」

すでに窓口にいた『迎えの人』は驚いて、アクリル板の向こうの職員に問う。

「え? 何かあったんですか。」

窓口から声が聞こえてきた。

「あなたがたはいいですよ。」

「...え?」

「あなた方は乗れると言ってるんですよ。『今すぐ』乗れないだけで、電車は必ず来ますから。普通...」

「あ、じゃいいや。あっ円が財布に入ってない! スーツケースだ。」

私はスーツケースの中に\をしまって置いたことを思い出して、窓口の手前で慌てて屈み込んだ。
ジッパーを動かしてスーツケースの中身を『開店』する。

「すぐ使うものは財布に入れておけよ。常識だろう。」

「なんだとう?入れちまったものはしょうがねえだろ。」

この職員どんな応対だ?
一体どんな基準で乗車を決めるんだろう。
あれ、値段はいくらだっけ...

「おーい、いくらだ?」

「ひとり2730円です。」

「いいよもう。払っておくから。」
連れはがっくりとこちらに背中を向けて支払いをしようとする。

「こらっ待て。自分で払う。」

「いい。同じことだ。」

「いーや、違う。待て! あ、うーん。電車代の分、何かおごろうか...また胃の中身はブチまけちゃったから、そのうち何か食べるだろう? あ、でも電車代払わないと忘れちゃうから...やっぱ払っとく。ちょっと待て! 」

ぎっしり詰まったケースの中をに手を突っ込むが入っているのは一番下だった。
手の平をまっすぐにして拳法家のようにスーツケースに文字どおり手を突っ込む。

「ふんっ。一番下だな? お金、おまえはもう死んでいる。アタタタタタタッ...」

憲法下のように手を突っ込んだので、ケースはぐらっと倒れそうになる。
バシ。
片手は倒れる寸前のケースを押さえた。

「どっこらしょ...こうやってケースを寝かせれば...」

「ほら、またパンツとかはみ出てくるから。いいよ、もう。」
連れはまるでお父さん状態だった。

「...あの~。僕、俳優に似てるっていわれるんですけどどう思いますか?僕、今本気で転職を考えているんですけど。大体、あなた役者とか知ってます? 映画だの、歌舞伎だの。」

「わかりません。」
『お迎えの人』は憮然とそうに答えた。

職員がおもむろにつぶやいた。
あ、さっきの娘達が言っていたのはこのことだ。
何だろう、この職員...私と同じくらい不審なヤツだな...

「そりゃ知ってるよ。...歌舞伎で今、一番熱いのは日曜長編ドラマに出演中の亀次郎だ。あれは本物の武田信玄になりきってる。」

「あなたが亀次郎の何を知っているって言うんです? 他にもっと親しみのある役者はいないんですか?」

職員の声がむっとしてる。
なんなんだ。
話せば怒るし、放っておけば怒るし。

「熱いっていっただけで、別に何も...あ、いや知ってるわ。奴は...」

「奴は何なんですっ。」

「澤瀉(おもだかや)屋だ。 」

...ざまみろ、知らないだろ。
いちいちうるさいな。
もしかしてここでケース開いてるのが迷惑?
気を遣って一応列から外れてるのにさ。

「もしかして、『ざまあみろ、知らないだろ。』とか思っていませんか? ちなみに私はそんなことは知っています。」

「ええっ? 凄いな。私は最近知ったんだけど。インターネットで。」

「お~い、チケットもう買ったのか?」

「うん買った。ホラ、お仕事の邪魔しちゃいけないよ。ケース閉じなさい。行くよっ。」

「うん。じゃ、アレだな。ホームでお金渡すよ。じゃ迷惑だろうから『店開き』の場所を変えて、と。」
しかたなく、ジッバーを元に戻してケースの上に座り込む。

「...俺は恥ずかしい。」
連れはまたがっくり肩を落としていた。

「私は気にしませんよ。」
職員は涼しげに言う。
...この物の言い方、私に似ている。
私は首をかしげて職員の声だけ聞いていた。

「...いつもああなんですか?」
職員がそういったような気がした。
なんだか失礼な奴だな~。

「ええ。昔からああですね。苦労しますよ。」
連れは無情にいった。

「お気の毒ですね。」
職員はまた涼しげに言う。

「なんだか知らんが、ギッチリ詰まったスーツケースはこうすると楽に閉まるんだ。ほうれみろ。きれいに閉まった。さあ、行くぞ。」

寝かせたケースを立ち上げて、持ち手を握りながら連れを促す。
窓口の職員によびとめられた。

「そこのあなた、そう。あなたです。あなたは私をどう思いますか。」

「え? 私? どうって? ちょっと感じ悪いな~、思ったこと言い過ぎるな~と思いますけど。良いんじゃないですか? 会社に何も言われないのなら。」
しかし偉そうだよな。

「いえ、そうではなくて。聞いていなかったんですか? 私は俳優に似てるといわれるんですけど、どう思いますか?と聞いたんです。」

「...いや、似てるかにてないかないかなんて、主観の相違に他ならないでしょ。それより仕事に集中したほうが...いいんじゃ...」

集中したほうがいいんじゃないですか? と言おうとして職員の顔に釘付けになった。
ここで私は初めてこの不思議な職員の顔を見たのだった。

あの顔。
見覚えがある。
すごくある。

「私はここで働いているわけではなく、ボランティアのような事をしているんです。で、どうなんです? 似ていますか? 似ていないんですか?」

「はあ......いや、よく似てますね(?)っていわれるって...似てるも何も本人でしょ。何してるの? こんなところで。」

自分の左手の人指し指が思わず、アクリルの向こうで窓口に座る人物を指さしそうになる。

「本物だって認めるんですね。」
挑むように睨まれる。

「だって...本人なんだもん..」

「認めるんですね。」

「うん。」

体が右にぐらりとひっぱられた。
連れが力一杯私を引っ張ったのだ。
「行くよっ。」

「何するんだ。まだ話終わってないっ。引っ張るなよ! 服が伸びる。」

「仕事の邪魔だよ。」

「待て。きっと何かあるんだ。話せ、マヌケ!」

腕を引っ張られながら、抵抗するが疲労と驚きで体が思うように動かない。
私、この人知ってる。
何でこんなところにいるかしらないけど。

「マヌケとは何だ?もういっぺん言ってみろ?」
連れが怒っていた。

「何度でも言ってやる。マヌケ、驚いて手を放せっ。」
私も応戦するが適わない。

「...お前のおかげで俺は大損だ。俺の時給を幾らだと思っているんだ。」
職員はそんなことを言って席を離れた。
遠ざかる謎の窓口職員は立ち上がって見えなくなった。

「ちょっとまて! なんなんだ一体。イキナリそんな事言われても困るじゃないか?」
私も引っ張られて窓口から遠ざかっていった。

あ、見えなくなった。
ずるずる引っ張られて、エスカレーターでスカイライナーのプラットフォームに降りていく。
放心状態だった。

何であんなところに。
駅員の帽子をかぶった職員でない人物がいるんだ。
撮影?

エスカレーターを降りると、すぐホームのベンチがあった。

...座ろう。
一体、何だったんだろう。
見間違い。
そうだよな?
何をみるともなくベンチ向かいの線路を見ながら考えた。

「気のせいだと思い始めているな。...気のせいじゃないと思うぞ。」

目の前を浅いブルージーンズが左から右へ横切っていった。

なんだ?
気のせいじゃないって、あぁ、じゃあ本物だったんだ。
でも席からいなくなったから私には関係なかったんだな。
なあんだ。
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